Book Review 私をくいとめて 綿矢りさ著

 

私をくいとめて [ 綿矢りさ ]

価格:1,512円
(2017/1/19 19:40時点)
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女性あるある小説と謳っているが、人間あるあるとして完成している。

 

僕は綿谷さんの刊行された小説は全て読んでいるのだけれども、この小説には工夫したという箇所がうっすらと浮き出ており、ありきたりな発想で、ありきたりに書かれている。

ただそのありきたり感がとても心地良く、彼女自身とても楽しんで書いたんだろうな~と読んでいて嬉しくなり、今こうして文章を書いているのがとても心地良い。

 

あらすじ

 

黒田みつ子(33歳)お一人様。OL。そんな彼女の頭の中にはA(彼女が名前をつけた)が居て、その頭の中のAと会話しながら、ありきたりな日常を堪能していく。

ありきたりな会話、ありきたりな悩み、ありきたりな設定の中、繰り出される明らかにクオリティの高い文章。そんなみつ子とAの物語。

 

 

かなり華やかで可愛らしい表紙だけれども、数ページ読むと、頭の中の自分と会話しているヤバいやつのやばい小説なんだ…。まどマギみたいに可愛い絵柄で騙しておいて、後からマミった描写出してくるんだ…。と少し沈んだ気持ちになるが、そんなことはなくおジャ魔女どれみだ。

 

一人称で書かれているこの文章には、可愛らしさというものがうっすらと出て来る。33歳という所謂アラサー「女子」の彼女の頭の中は限りなく現実に近い。

ただ時折見せる可愛らしい表現には、多少の痛々しさも感じるものの、これこそが共感を生む一つの原動力となっている。

 

話は変わるが、綿谷さん今おいくつなんだろうなと調べてみると、現在32歳で2015年にご結婚されているらしい。おめでとうございます!

だとすると、多分31,2歳の頃に書いた小説なんでしょう。

そう考えるとすごくしっくりと来る。

この小説は自分自身が安定していないとかけないと思う。大地のゲームは正直何をしているんだって思うぐらい、ぐらついた感じの文章を書いている印象があって、彼女自身が多少揺らめきながら小説を書いていたのだろう。

ただ「私をくいとめて」は、揺らめき具合を楽しんでいるようにも見える。浮き輪でぷかぷかとプールに浮かんでいるような、心地の良い揺らめきなのだ。その自分の心地よさをくいとめて!ということかもしれない。

そしてこの本のすごいところは、日記になっていないところだ。

そんなに大事件が起こるわけでもないので、読んでいて次どうなるんだろうというワクワク感は少ない。しかしワクワク感はこの小説には必要なく、ありふれた日常の中にAという非日常がいるおかけで、これは日記ではなく、小説なんだ!と何の不思議もなく感じてしまう。Aとの生活を歌っているような、一つの楽曲と言ってもいいかもしれない。

そんな小説(楽曲として比喩を続けたいけど、不都合があるしわかりにくいので小説)には実際に歌を聞くシーンがあり、その歌の形容の仕方が本当に良かった。それがこちら。

 

「溶けたバター熱いバターで、うすくひきのばした夏が、コルクの蓋のガラス瓶に永遠に閉じ込めてあるような音楽。ジュースの入ったグラスから伸びるストローをくわえながらチェアでうたた寝する、脱力の楽園のメロディー」

 

こうやって自分で打っているだけでも、何とも可愛らしく、そして大人な表現なのだろうと心から思う。そしてすごいところは、小説の途中でこんな大胆な比喩を入れてしまうと、小説自体が威圧してくることがあるのだけれども、それを感じさせない自然な甘さ。僕はこの曲を知らないけど、思い描いている「場所」を感じさせる、言葉のチョイス。そして多分あえてだと思うのだけれども、ひらがなを多用し、幼さを見せる部分も実に巧妙で、面白い。

 

とにかくこの小説はなんだか元気になり、アラサー「女子」というものの皮肉が男性から見ると、よくぞ言ってくれた!と痛快な気分になる。

そんな様々なあるあるを入れ込んだ、この「私をくいとめて」を是非本屋に立ち寄り、読んで頂きたい。

自分だけかな?って思っていることは、やはり自分だけなんだと、安心させてくれるだろう。


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